山下 通教, 坂下 知久, 森岡 裕彦, 向井 百合香, 佐々木 克
現代産婦人科 64(2) 389-393 2016年5月
帝王切開創部妊娠は異所性妊娠の中で比較的稀な疾患だが画像診断の向上に伴い報告が増加している。子宮破裂や大量出血のリスクが高く早期の診断・治療を要する。帝王切開創部妊娠に対し開腹で創部楔状切除を行い、子宮を温存した一例を経験したので報告する。症例は20歳、3経妊2経産で2回の帝王切開既往であった。妊娠5週6日に前医で子宮体下部に胎嚢を認めたため、異常妊娠を疑い紹介受診した。初診時の経腟超音波検査で子宮筋層の帝王切開創部直下に胎嚢を認め帝王切開創部妊娠を疑った。妊孕性温存希望が強く、経腟超音波検査で帝王切開創部の筋層の菲薄化はなかったため、予定術式は子宮内容除去術とした。妊娠6週4日に手術目的で入院後に下腹部痛と子宮出血が出現した。経腟超音波検査で帝王切開創部筋層が明瞭に菲薄化し、胎嚢周囲に豊富な血流を認めたため帝王切開創部妊娠と診断した。また腹腔内出血を疑う所見を認めたため子宮内容除去術は中止し緊急開腹術を行った。開腹すると子宮筋層の帝王切開創部は破綻しておらず、腹腔内出血は卵管からの逆流であった。術中超音波検査で創部直下の胎嚢および子宮筋層の菲薄化部位を確認してから創部を楔状切除し、子宮筋層を2層縫合した。創部楔状切除はメソトレキセート療法と同様に妊孕性温存が可能であり、さらに子宮筋層を修復できる治療法である。また開腹の場合、術中超音波を用いることで腹腔鏡手術に比較し菲薄化した創部筋層の切除範囲を正確に決定でき、筋層をより確実に修復できると考える。帝王切開創部妊娠で妊孕性温存が必要な場合に、開腹下での創部楔状切除は有効な治療法の1つと思われる。今後は症例の蓄積により絨毛遺残や創部妊娠の反復の頻度、次回妊娠の経過について他の治療法と比較していく必要がある。(著者抄録)