赤木 充宏, 中野 茂樹, 後藤 康洋, 天野 博史, 高橋 麻衣子, 伊藤 直美, 柴田 知枝, 山本 昭江, 眞河 一裕, 佐藤 武志, 清水 美幸, 小田 知矢
理学療法学Supplement 2004 D0674-D0674 2005年
【はじめに】 肺胞蛋白症は、1958年にRosenらによりはじめて報告された肺胞内にサーファクタント脂質及び蛋白が貯留する稀な疾患である。その発生は、人口100万人に対し2~5人といわれており、20~40歳代に多いが、すべての年齢において発生し、男女比は2~4:1程度である。この疾患の治療としては、自然寛解するものも認められるが、全身麻酔下での全肺洗浄や反復肺区域洗浄が用いられ、様々な報告の中で肺洗浄時にはタッピングが行われていることが多い。今回我々は、右側肺の全肺洗浄に携わることができ、理学療法士が関わった右肺の肺洗浄と関わらなかった左肺の肺洗浄を比較したので若干の考察を加えて報告する。<BR>【症例紹介及び経過】 症例は28歳女性、主訴として歩行時の呼吸困難がある。現病歴として、平成15年10月より当院呼吸器内科フォローされており、平成16年になり気管支ファイバーによる区域肺洗浄を6月に2回、7月に2回の計4回行われたが、症状改善しないため平成16年7月27日全肺洗浄を目的に入院となった。7月29日に左側肺の肺洗浄施行、8月5日には、右側肺の肺洗浄が施行された。左肺の肺洗浄は、全身麻酔下にて温生理食塩水1000ml×15本使用し、体位は仰臥位のみで行われ、胸部へは電動バイブレータによる機械的振動が行われた。生理食塩水の回収量は9800mlで回収率は65.3%であった。右肺の肺洗浄は、全身麻酔下にて温生理食塩水1000ml×9本使用し、計8回施行。右側臥位にて生理食塩水を注入し、仰臥位へ体位変換を行い、用手的呼吸介助手技などを5分間行った。排水時に体位を左側臥位にし、呼吸介助を行いながら5分間排水した。右側肺の肺洗浄時の生理食塩水回収量は6500mlで、回収率は72.2%であった。また、7回目、8回目は半腹臥位にて呼吸介助および排水を行った。肺洗浄後において挿管中100%酸素投与時のP/F ratioは、左肺洗浄後は332.2、右肺洗浄後は532.2であった。肺洗浄後はいずれも翌日に抜管し、施行後の経過は良好で、8月9日退院となった。<BR>【考察】 肺胞蛋白症の治療として、1965年Ramierzらが、全身麻酔下片肺大量洗浄法の有用性を発表して以来、肺胞蛋白症の治療法の一つとして行われており、肺洗浄中に胸部へはタッピングを用いることが多い。今回我々は、肺洗浄時に体位変換を取り入れ、胸部へは用手的呼吸介助手技を中心に行った。生理食塩水の回収率、術後のP/F ratioにおいて左右差を認め、また患者の自覚症状としては、右肺洗浄後において呼吸困難感が軽減した。今回の肺洗浄時に我々が関わることにより、主観的には体位変換や呼吸介助を行った方が有効であった。しかし、客観的データを得ることができず、どの治療手技が有効的であったかは不明であるため今後の検討課題としたい。