安藤 拓摩, 池住 洋平, 近藤 朋実, 松本 祐嗣, 横井 克幸, 中島 葉子, 熊谷 直憲, 伊藤 哲哉
日本小児高血圧研究会誌 16(1) 40-44 2019年7月
溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN)は、A群β溶連菌感染症後に血尿、浮腫、高血圧を三主徴として発症する小児には比較的頻度の高い腎疾患であるが、時に乏尿によりはっきりした尿所見を認めずに浮腫や高血圧のみが前面になって発症する例があり、腎外症候性急性糸球体腎炎といわれる。今回、無熱性けいれんで発症した1例を経験したので報告する。症例は10歳男児。入院1週間前より腹痛、嘔吐、下痢といった胃腸炎症状を認めていた。入院前日より頭痛があり、入院当日に急激な意識レベルの低下、両側上肢の強直性けいれんを認め当院に搬送された。来院時の血液検査・髄液検査・頭部CTでは明らかな異常所見認めず、無熱性けいれんとして精査、加療目的に入院とした。第4病日頃より強い頭痛の訴えと血圧191/103mmHgと著明高値を認め、高血圧緊急症と診断した。同日に行った頭部MRI T2強調像、FLAIR像にて後頭葉に高信号域を認め可逆性後頭葉白質脳症(PRES)と診断した。血液検査では補体価の著減を認め、さらにASLO、ASKの著増、咽頭よりA群溶連菌迅速抗原陽性を認めたことより、PSAGNとこれに伴う二次性高血圧と診断した。高血圧症に対してニカルジピン塩酸塩持続静注等の緊急治療を行い諸症状は改善した。その後の全身状態は良好で第13病日に頭部MRI再検、PRESの所見は不明瞭化していることを確認し退院とした。PSAGNの中に、本例のように臨床的に高血圧のみが前面に出現する例があり、溶連菌感染症流行期に高血圧や浮腫を呈する症例の鑑別疾患として本症があることを考慮する必要があると考えられた。(著者抄録)