近藤 朋実, 池住 洋平, 横井 克幸, 中島 葉子, 熊谷 直憲, 伊藤 哲哉
日本小児高血圧研究会誌, 17(1) 4-8, Jul, 2020
高安動脈炎は大動脈とその主要分枝などに病変を生じる大型血管炎で、若年女性に好発する。疾患特異的なマーカーがなく、微熱や全身倦怠感が数週間〜数ヵ月続き、不明熱の鑑別の中で診断されることが多い。我々はけいれん重積で搬送された児が精査の結果、高安動脈炎による腎動脈狭窄が原因の高血圧性脳症だったことが判明した症例を経験したので報告する。症例は13歳、女児。生来健康で、既往歴、家族歴に特記すべきことなし。受診の1ヵ月ほど前から頭痛・嘔気を度々訴えていたが、登校できていた。受診前日の夜より眠れない程の強い頭痛を訴え、翌日朝に児がけいれんしているところを家族が発見し当院へ救急搬送された。けいれん重積および収縮期200mmHg以上の高血圧を認め、それぞれ抗けいれん薬および降圧薬の投与を開始した。頭部MRIの所見より高血圧性脳症と診断した。身体所見では腹部の収縮期血管雑音を認め、四肢の血圧の左右差は認めなかった。またCRPを含めた血液検査は正常であった。後に判明したRA系の亢進と、入院2日目に実施した胸腹部の造影CTで広範囲にわたる大動脈ならびに腎動脈を含む主要分枝の狭窄所見から、高血圧の原因は高安動脈炎による腎血管性高血圧と診断した。バイパス術など専門的な治療を要すると判断し入院4日目に他院に転院となった。本症例はけいれん重積で搬送され診断に至った比較的稀な例である。発熱の病歴はなく、受診時のCRPなどの炎症マーカーも陰性であり、さらにPET-CTにおいても病変部位の炎症反応を検出できず、すでに高度に狭窄した血管病変がみられた。本疾患では一般にCRPや赤沈値などの非特異的な炎症性蛋白の上昇を伴うことが多いが、慢性の経過を辿る症例では炎症所見に乏しい症例も存在する。高学年〜思春期の特に女児に原因不明の重度高血圧を認める場合は本症の可能性を考える必要がある。(著者抄録)