吉岡 哲志, 内藤 健晴, 藤井 直子, 片田 和広, 竹内 健二
日本耳鼻咽喉科學會會報 111(7) 523-532 2008年7月 査読有り
【はじめに・目的】耳管形態, 特に各年齢期での違いを検討することで, 耳管機能異常に起因する疾患の病態を明らかにできる可能性がある. われわれはCTを利用し, ヒト生体における耳管計測を行ってきたが, 今回さらに測定値を年齢ごとに比較検討した.<br>【方法・対象】対象は成人48耳, 小児31耳 (7歳未満23耳). CTデータ上にそれぞれ設定した基準点座標を元に, 各部の長さ, 径, 角度を計測した.<br>【結果】標本で生じるゆがみ・縮みは発生せず, 離れた位置の距離や角度の計測が可能であった. 7歳未満の幼児群と7歳以上の学童成人群を比較すると, 骨部長, 軟骨部長, 耳管全長のすべてにおいて乳幼児群よりも学童成人群で長くなっており, 咽頭口も乳幼児群よりも学童成人群で大きい結果であった. 骨部と軟骨部のなす角は学童成人群でより鋭角となった. 耳管を正面・側面から見た場合においても, 軟骨部が成長と共に有意差を持ってより急峻となり, その結果, 骨部と軟骨部がなす角度がより鋭角へと変化した.<br>【考察・まとめ】CTによる耳管測定方法は, 従来の標本による測定法に代替しうる有用な測定方法と考えられた. 小児耳管の立体解剖学的特徴を, ヒト生体において初めて証明した. これらの耳管の年齢変化は, いずれも小児の耳管機能が未熟であることを検証, 示唆するものであった. 本手法は多くの生体標本を利用した精密な計測を可能にし, 耳管形態に関する基礎的・臨床的研究の有益な手法となりうるものであった.