佐藤公治, 相澤貴子, 小林義和, 近藤俊, 今村基尊, 水谷英樹
日本口蓋裂学会誌 36(3) 202-207 2011年 査読有り
【緒言】Russell- Silver症候群(以下RSSとする)は子宮内発育遅延,生後のcatch up growthを伴わない低身長,相対的大頭を伴う逆三角形の顔貌を特徴とする症候群で,顔面頭蓋の発育不全や左右非対称に起因する不正咬合に対し歯科矯正治療が行われることがあるが,口蓋裂の合併は希である。今回われわれは口蓋裂を伴ったRSSの1例を経験したので報告する。<br>【症例】患児は当センター初診時6か月の女児,2007年8月,在胎39週,正常分娩で出生,出生時体重1334g,身長39cm,Apgar score 4/8,極低出生体重児のため,翌日近市民病院小児科へ搬送された。呼吸に問題なく,心エコーでも異常は認められなかった。口蓋裂が確認されたが哺乳は可能であった。頭部CT,MRI検査が追加されたが異常所見なく,11月,体重2315gで退院となった。<br>その後経管栄養も併用されたが,体重増加は不良,口蓋裂による哺乳障害が原因と考えられ,2008年2月当センター初診となった。口蓋床を作成し,当院小児科と併診していたが,発育遅延,逆三角形の顔貌,下肢長の左右差などから,RSSが疑われた。遺伝子検査にて11番染色体短腕H19-DMRの低メチル化によるエピジェネティック変異が確認され,特徴的な臨床徴候とあわせて,RSSの診断が確定した。言語を含め発達遅延は認めなかったため,2010年9月,3歳1か月時に体重6365gで口蓋形成術を施行した。口裂狭小で開口量も少なく,挿管は可能であったが,ディングマン開口器を装着できなかった。万能開口器による強制開口で20mmの開口量が得られ,舌を牽引,圧排しながら手術を施行した。術後の合併症はなく,外来にて経過観察中である。<br>【結語】分子遺伝学的研究の進展により,RSSの多くでエピジェネティックな変異が確認されるようになり,成長発育障害の本態が明らかとされ,成長発育障害に対して成長ホルモン療法が適応されるようになった。RSS患児への口蓋裂治療では,その病態をよく理解した上での対応が重要と考えられた。