岡本 治美, 西澤 春紀, 関谷 隆夫, 稲垣 文香, 江草 悠美, 南 元人, 宮村 浩徳, 多田 伸, 宇田川 康博
東海産科婦人科学会雑誌, 47 219-225, Mar, 2011 Peer-reviewed
妊娠高血圧症候群(pregnancy induced hypertension;PIH)と子宮内胎児発育遅延(fetal growth restriction;FGR)の一病態として胎盤形成障害や機能不全が考えられ、こうした例では胎盤内血流が減少することが指摘されている。近年3D power Doppler法におけるvolume histogram機能の開発も相まって、胎盤内血流の分布ならびに強度の立体的評価が可能となった。今回我々は、PIHとFGRにおける病態解明に関する研究の一環として、妊娠29週〜40週のPIH14例、FGR15例および正常妊娠18例を対象に、vascularization-index(VI)、flow-index(FI)およびvascularization-flow-index(VFI)を用いた胎盤内血流の評価を行った。各項目に関して比較検討した結果、PIH群ではcontrol群と比べVI、FIおよびVFIがともに有意に低下し(P<0.001)、またFGR群に比しFIの有意に低下が認められた(P=0.03)。一方、FGR群ではcontrol群と比べVIおよびVFIはともに低下する傾向を認めたが(P=0.07、P=0.05)、FIは有意差を認めなかった(P=0.17)。以上の結果から、PIH群においてほぼすべての症例で胎盤血流が低下しているのに対し、FGR群では胎盤血流の低下を認めない症例も含まれており、胎盤の血管構築に起因しない病態の多様性が反映されたものと考えられた。しかしながら、超音波3D power Doppler法を用いた胎盤血流評価は、構築障害や血流異常に基づく胎盤機能不全と関連する疾患を評価する一助となる可能性が示唆され、胎児胎盤機能を推測する新たな検査法になり得る。(著者抄録)