村山 陵子, 芦田 沙矢香, 南谷 真理子, 松崎 政代, 吉田 美香子, 春名 めぐみ
日本助産学会誌 37(3) 243-251 2023年12月
目的 骨盤臓器脱(POP)を含む骨盤底障害のリスクファクターとして最も多いのは妊娠・出産である。しかし,POPの原因は胎児による産道への負荷だけでなく,腹腔内圧の上昇による骨盤内臓器の下降がある。POPは多彩な自覚症状を示すため,問診による診断が困難である。POPの特異的症状の有病率と腹腔内圧を上昇させる習慣などの危険因子との関係がわかれば,産後の女性のPOP発症を予防できる可能性がある。本研究の目的は,産後5年間の骨盤臓器脱の自覚症状の有病率を産褥期ごとに明らかにすることである。さらに,これらの自覚症状の危険因子を明らかにすることである。方法 本調査は,東京大学医学部附属病院で経腟分娩を行った人を対象とした横断的研究であった。質問票は,Prolapse Distress Inventory(POPDI-6)を含むPelvic Floor Distress Inventory-short form 20 日本語版を使用した。産後半年ごとにPOPの症状経験率を算出した。またライフスタイルや出産記録など参加者の特徴を質問票やカルテから把握した。参加者を症状のあり,なしの2群に分け,2群間で有意差のある変数を用いてロジスティック回帰分析を行った。結果 合計3776名に質問票を配布し,1056名(28.0%)から回答を得た。有効回答数は681名であり,産後5年間にPOPの自覚症状があった女性は36%,産後半年以内にあった女性は43%であった。産後の各期間において,POP症状を持つ割合に有意な差はなかった。POP症状を有する女性は,そうでない女性に比べて,失禁,硬便,妊娠前の排便時に力む習慣,産後の硬便を経験する割合が有意に高かった。結論 妊娠前の生活習慣と産後の排泄状態が産後のPOP症状に関係していたため,POP症状の悪化,発症を予防するためには,産後早期の症状の有無のモニタリングや排泄ケア,骨盤底に負担をかけない日常生活行動へのアドバイスなどのケアの必要性が示唆された。(著者抄録)