前田 耕太郎
日本臨床外科医学会雑誌 44(2) p139-144 1983年2月
我々は, Borrmann 4型胃癌に合併した十二指腸球部の腺管絨毛腺腫を経験したので,本邦報告例の検討も加えて報告する.<br> 症例は67歳の男性で,上腹部痛を主訴として近医を受診し,胃癌と診断され手術目的で来院した.<br> 高血圧はあるが,家族歴には特記すべき事はなかった,上部消化管レ線で, Borrmann 4型胃癌と,十二指腸球部の鶏卵大の腫瘤陰影があり,内視鏡では,縻爛を有する粗〓な胃粘膜と,十二指腸球部の無茎性カリフラワー状腫瘤を認めた.生検所見では,胃は低分化腺癌で,十二指腸球部は,表面被覆上皮の絨毛状の過形成像と炎症反応がある十二指腸粘膜であった.胃癌と球部乳頭状腫瘤の診断で,腫瘤を含む単純胃全摘術を施行した.切除標本では,胃は幽門前部を残し,全体にBorrmann 4型胃癌が占め,球部には, 7.0×6.5cmの広基性,カリフラワー状腫瘤があった.組織学的には,胃は低分化腺癌で,球部腫瘤は, Paneth細胞を有する腺管絨毛腺腫であり,軽度の異型を認めるが,癌とすべき所見はなかった.<br> 本症例を含めた本邦報告例94例の年齢は, 25歳から80歳にわたり, 40-70歳に好発し,男女比は, 52:34で,発生部位では,第1, 2部が82例とその殆んどを占めた,症状では,上腹部不快感が各発生部位にわたって多く認められた.大きさは, 59例中46例が直径2cm以上であり,最大は12cmで,有茎性のものが多いが,乳頭部では無茎性の腫瘤が多かった.組織学的には,腺管絨毛腺腫が,約半数を占めた.合併病変は,胆嚢もしくは総胆管の結石が11例あり,胃癌,胃潰瘍も認めた.<br> 治療は,外科的摘除が主であるが,内視鏡的ポリペクトミーの報告も増加している.治療に際し,開腹摘除時の術中病理診断の必要性と,粘膜内癌の取り扱いについて若干の検討を加えた.