加藤 茂, 森本 紳一郎, 平光 伸也, 植村 晃久, 久保 奈津子, 大槻 眞嗣, 加藤 靖周, 杉浦 厚司, 宮城島 賢二, 吉田 幸彦, 伊藤 昭男, 菱田 仁
心臓 35(9) 621-628 2003年
急性心筋炎では,心原性ショックにおちいる症例が存在する.しかし,一体いかなる時期にいかなる症例が,心原性ショックにおちいるのかという点については明らかにされていない.今回,前述の問題点を明らかにしえたので報告する.<BR>心筋生検により,組織学的に診断された急性リンパ球性心筋炎47例中,入院時にすでに心原性ショックにおちいっていた8例を除く39例を対象とした.39例を,入院後にショックにおちいり第2~6病日に大動脈内バルーンパンピングあるいは経皮的心肺補助の補助循環を必要とした劇症群12例(30.8%)と,補助循環を必要としなかった非劇症群27例(69.2%)に分け,両群間における入院直後の臨床検査所見を比較検討した.また,劇症群12例において,ショックの発生時期とその増悪因子についてもあわせて検討した.<BR>劇症群は非劇症群に比較して年齢が高く(57.8±11.6,40.7±17.3歳,p<0.01),脈拍(110.9±29.0,86.5±26.9歳,p<0.05),C反応性蛋白(7.0±7.0,2.3±2.2mg/dl,p<0.01)およびクレアチンキナーゼ(1,147.1±876.2,594.6±568.7IU/l,p<0.05)も高値を示した.心電図では,劇症群において心室内伝導障害の合併(9/12,7/27例,p<0.01)が高頻度で,心エコー図では劇症群の左室駆出率(40.7±13.9,50.1±10.6%,p<0.05)が低下していた.また,ショックの発生時期は入院後1.8±1.2日であった.劇症群12例中7例(58.3%)では,心室頻拍あるいは完全房室ブロックなどの不整脈が誘因となってショックにおちいったことが明らかとなった.<BR>急性リンパ球性心筋炎では,入院後に心原性ショックにおちいる症例が約30%存在する.入院時に頻脈あるいはC反応性蛋白,クレアチンキナーゼの高値,心室内伝導障害合併,左室駆出率低下を示す症例が劇症化しやすいことが明らかとなった.また,その発症時期は入院後平均1.8日であり,増悪因子の一つとして不整脈の関与が示された.