森本 紳一郎, 西川 俊郎, 梶田 昭, 関口 守衛, 根本 晶子, 浅井 利夫
心臓 15(7), 796-801(7) 796-801 1983年
ジギタリスと利尿剤の投与にもかかわらず,8年間の経過観察中に次第に心不金が増強し,その病態について示唆に寓む肥大型心筋症の1剖検例を経験した.症例は17歳の女性で,生前には著しい右心不全症状を認めた.心胸比は,初診時0.62より死亡前0.82へと著しく増大した.剖検では心重量600g,心のう水200mlで,中等度から高度の右房室の拡張,軽度の左室の拡張および非対称性中隔肥厚を観察し,組織学的には両心室自由壁,室中隔全般に著しい錯綜配列を伴う奇妙な心筋肥大像を認めた.その他うっ血性肝硬変症と肺のうっ血および水腫を観察したものの,肺内動脈枝の中膜の肥大,肺胞壁のび漫性の線維化および心不全細胞を認めず,肺静脈の拡張は軽度であり,高度の難治性の右心不全に比較的歴史の浅い左心不全が加わったことが推察された.以上より,肥大型心筋症の慢性うっ血性心不全例では,左心不全に比し右心不全の顕著な例が存在することが判明した.