辻村 享, 岩瀬 克己, 大谷 享, 花井 恒一, 稲垣 朝子, 宮川 秀一, 堀口 明彦, 早川 真人, 神保 慎, 三浦 馥, 黒田 誠, 高橋 正樹
日本臨床外科医学雑誌 56((10)) 2062-2066 1995年
症例は60歳,独身女性,閉経後. 1992年8月左乳房のしこりに気付き来院.腫瘤は左乳房内側上方に位置し,大きさは径約2cmで硬く,表面は凹凸不整.同側腋窩リンパ節は触れなかった.超音波検査では大きさ2.2×1.2cm,辺縁は不規則,ヤツデ状,内部は不均一な低エコー腫瘤を認めた.同時に穿刺吸引細胞診を行い,疑陽性の診断. 9月21日全麻下に腫瘤摘出生検,術中迅速組織検査を施行し,若年型線維腺腫の診断を得た.永久組織標本ではダルマ型の腫瘤のくびれた部分に大きさ2×3mmの非浸潤性小葉癌を認めた.乳腺線維腺腫は若年女性に好発し,高齢者では稀である.線維腺腫内に小葉癌を併発することがあるといわれているが,本邦における乳癌併存の報告は自験例を含め12例のみで,そのうち小葉癌が6例を占める.さらに欧米の報告を合わせても50歳以上の線維腺腫内小葉癌は極めて稀である.