伊藤桜子, 津田彰, 山本晴義, 石川利江
久留米大学心理学研究 (4) 89-102 2005年 査読有り筆頭著者
目的精神的健康増進を目的としたメンタルヘルスセンターの利用者の生活習慣と精神的健康度の実態を調査し,精神的健康度と生活習慣要因の関連性を検討した。仮説精神的健康増進を目的とした施設の利用者には,精神的健康度の低い不健康状態,ストレス状態にある者が多く,精神的健康度には,生活習慣が関連している。方法 横浜労災病院勤労者メンタルヘルスセンター(YMHC)利用者2361名(男性830,女性1531)を対象に調査を行った。調査票の内容は,基本的属性,一般精神健康調査票GHQ-12,生活習慣12項目とした。精神的健康度は,GHQ採点法(1-12点)による総得点の2/3点間にカットオフ値を設定し,2点以下を精神的健康度の高い「健康状態」,3点以上を精神的健康度の低い「不健康状態」と定義し,各生活習慣により不健康状態が出現するオッズを,ロジスティック回帰分析を用いて検討した。結果 生活や食事が規則正しい,栄養バランスに気をつける,睡眠時間6〜8時間など,一般的によい生活習慣とされる習慣を実行している者が多かった。精神的健康度が低いストレス状態にあると考えられる者は65.2%であった。一方,GHQ-12の得点分布における最頻値は0点(14.8%)であり,YMHC入会時に精神的健康度の高い者も利用していたことが示された。ロジスティック回帰分析の結果,性,年齢,通院治療,未治療自覚症状を調整した不健康状態出現のオッズ比は,趣味がない,運動が月2回以下,生活が不規則,朝食を毎日食べない,という生活習慣であるほど有意に高いことが示された。すなわち,こうした生活習慣は,精神的健康度低下のリスクを高めることが示唆された。また,相談相手がいることは,不健康状態出現のオッズ比を有意に低下させることが示された。結論 趣味がある,運動が週1日以上,生活が規則正しい,朝食をほぼ毎日食べる,相談相手がいるという生活習慣の実行が,精神的健康度の向上に貢献できる可能性が示された。こうした生活習慣の形成支援を行うことにより,精神的健康増進に寄与できる可能性が示唆された。