安江 朗, 加藤 利奈, 黒木 遵, 塚田 和彦, 関谷 隆夫, 長谷川 清志, 宇田川 康博
東海産科婦人科学会雑誌 42 181-187 2005年12月 査読有り
我々は,Tamoxifen(TAM)関連内膜癌の発癌機構の一つとして,p53のalterationが関与することを報告してきた.今回,TAMを長期投与されている症例を対象に,子宮内膜へのTAMの影響に関して検討した.乳癌術後,TAM単独治療中で当科にて経過観察可能であった27例(1例は内膜癌へ移行)に関し以下の検討を行った.TAM服用期間,内膜厚,内膜細胞診所見,内膜組織診所見,免疫組織化学的検討(p53,PTEN,hMLH1,hMSH2).非癌症例26例の平均TAM服用期間は45ヵ月,平均内膜厚は13mmと肥厚を認めた.内膜細胞診はのべ95回施行中,疑陽性以上は5回(5.3%)認めた.また,内膜組織診はのべ19回施行中,組織採取可能率は9/19(47%)と低く,間質の線維化が著しい場合は採取困難であった.組織採取可能であった9例(正常内膜2例,内膜ポリープ3例,内膜過形成1例,萎縮内膜3例)のPTEN,hMLH1,hMSH2蛋白の発現消失は認められなかったのに対し,p53蛋白は5例でlabeling index(LI):80%以上と高発現を認め,このうち4例は細胞診で疑陽性であった.一方,内膜癌に移行した1例に関しては,細胞診疑陽性の出現時よりp53蛋白の高発現が経時的に認められた.TAMはDNA adductsを形成し,子宮内膜におけるp53のstatusに影響を与え,その一部が癌化するものと思われ,形成的に正常に見える子宮内膜でもp53蛋白の高発現例は注意深い経過観察が必要である(著者抄録)