畦地 拓哉, 平井 由児, 上原 由紀, 笹野 央, 吉澤 寿宏, 松本 博志, 青嶋 瑞樹, 内藤 俊夫
感染症学雑誌, 93(5) 649-654, Sep, 2019
自然弁の感染性心内膜炎(IE)のempiric therapyとしてEuropean Society of Cardiology(ESC)ガイドライン2015ではampicillin(ABPC),cloxacillin(MCIPC),gentamicin(GM)の3剤併用が推奨されている.本邦では黄色ブドウ球菌用ペニシリン製剤はABPC/MCIPC合剤(ABPC/MCIPC)のみであり,これまでにIEのempiric therapyを目的としたABPC/MCIPC投与例は報告されていない.本研究では,2015年1月から2017年8月までに,当院でABPC/MCIPCが投与された症例のうち,改訂Duke診断基準に基づき,自然弁によるIEと確定診断された症例を対象に,ABPC/MCIPCの感受性・安全性・アウトカムについて検討した.なお,18歳未満の症例及びABPC/MCIPC投与量が24g/日未満の症例は除外した.対象は8名(男性5名,女性3名),年齢は34〜76歳(中央値68.5歳),基礎疾患は自己弁弁膜症6名,糖尿病3名であった.対象患者の血液培養からmethicillin-susceptible Staphylococcus aureus(MSSA)2例,viridans group streptococci(VGS)属3例,その他3例を検出し,8例中7例ではABPC又はMCIPCに感性を示した.Definitive therapyに変更するまでの投与期間は2〜6日(中央値3.5日)であり,この期間において有害事象による中断はなかった.MSSA 2例は中枢神経病変を合併し,definitive therapy目的にABPC/MCIPCが継続された.うち1例は投与開始12日目に先行する皮疹と急性腎不全が出現しvancomycin+ceftriaxoneに変更となった.IE患者のempiric therapyとして数日間のABPC/MCIPC 24g/日投与は血液培養から検出された病原体全てに感受性を示し,有害事象は認められなかった.またMSSAはIEの代表的起因菌であり,本邦でも中枢移行性が良好な黄色ブドウ球菌用ペニシリン製剤の必要性が再認識されるべきであると考えられた.(著者抄録)