荒島 康友, 神山 恒夫, 池田 忠生, 矢内 充, 上原 由紀, 坂上 伸哉, 熊坂 一成
日大医学雑誌 64(6) 385-388 2005年12月
日本大学板橋病院で,1984年から2002年までの18年間にPasteurella spp.の分離された症例のうち,患者由来Pasteurella spp.4例4株[Pasteurella dagmatis(P.dagmatis)1株,Pasteurella multocida subsp.multocida(P.multocida)3株]と,その原因と考えられた動物から分離されたPasteurella spp.5株:イヌ1頭[Pasteurella dagmatis(P.dagmatis)1株],ネコ4頭[Pasteurella multocida subsp.multocida(P.multocida)4株]の計9株(Table 1)について,PFGE法により疫学的な検証を行った.その結果,患者由来株4株,および患者に対応する原因と考えられた動物から分離された菌4株,の4組について,各組毎に同位置に同数のバンドを示し,一致率(類似度)も1.00であったことから,各組毎に同一のPasteurella spp.であることが分かった.今回検討した68歳,男性(気管支肺炎の気管支洗浄液からP.multocidaの分離された)のように,患者と飼育ネコとの直接的接触が全く無く,感染経路が不明確な症例の場合,従来は菌の生化学的性状,薬剤感受性,等の状況証拠(表現型の一致)により,飼育ネコを原因動物と考えた.しかし,今回,4例中1例ではあるが,直接的接触が皆無という情報と,PFGE法による結果から,間接的に,とくに空気中からの感染の可能性もあることを,分子疫学という観点から一歩踏み込んだ形で明らかにすることができた.現在,本邦にペットブームが存在し,パスツレラ症の激増傾向が認められ,死亡例もあることから,PFGE法のような分子疫学的解析を行い,原因動物,および感染経路の特定を行うことは,パスツレラ症の予防をはじめ病態の解明のために今後さらに必要と思われた(著者抄録)