佐川 志朗, 中村 太士, 妹尾 優二, 木村 明彦, 三沢 勝也, 入江 潔, 藤田 真人, 渡辺 敏也
応用生態工学 5(1) 85-102 2002年 査読有り
本研究は,北海道渡島支庁管内のワルイ川およびポンワルイ川で実施する河川改修において,実験的管理を採用し,キュウリウオの産卵場所および魚類の生息場所を調査し,魚類の生態特性からみた作業仮説を設定することを目的とした.<BR>調査は2000年5月から6月にかけて,工事施工箇所を中心に設定した調査区(上流区,工事区,中流区および下流区)で行い,キュウリウオ着床卵の密度,死亡率および魚類の生息密度と物理環境との関係を解析した.<BR>解析の結果,キュウリウオの産卵場所は主に工事区より下流域に位置すること,各生息魚類が様々なハビタットタイプを選択し(例えば,サクラマスはカバーを有する淵に選択性を有する等),工事区を含み河口から上流区まで広く分布すること,カンキョウカジカ,エゾハナカジカ等遊泳力の小さい両側回遊魚の生息密度は上流に移行するにつれて低下することが明らかとなった.さらに,キュウリウオ着床卵の密度および死亡率は主に河畔林によって構成されるカバー率に規定されており,カバー率が低下すると河床表面に付着藻類が繁茂し,流下してくる受精卵および細粒土砂を貯留し,死亡率を増大させる相互関係が考えられた.<BR>以上を勘案し,魚類への影響を極力回避するために次に示す2つの作業仮説を設定した.<BR>仮説-1:「工事区において河床勾配を低減し,水の勢いを制御すれば,工事区より上流への魚類の遡上が確保され,下流域においてもキュウリウオの産卵場所および両側回遊魚の生息地が保全される.」<BR>仮説-2:「工事区の河畔林カバーを早期に回復させれば,キュウリウオの卵の死亡率が抑制され,適度な蛇行河道により淵が形成されれば,サクラマスおよび他の魚種の生息地が創出される.」