岡 竜一, 藤井 健作, 棟安 実治, 森本 雅和
電子情報通信学会技術研究報告. SIS, スマートインフォメディアシステム 109(338) 43-48 2009年12月10日
本報告では,周波数領域適応アルゴリズムと時間領域適応アルゴリズムを併用したダブルトークとエコー経路変動の識別を必要としない制御法を提案する.音響エコーキャンセラには適応フィルタの係数が乱れる3つの要因がある.その一つは,参照信号となる遠端話者音声のパワー変動,あと二つは外乱として働く近端話者音声の重畳(ダブルトークと呼ばれる)とエコー経路変動である.このうち,初めのパワー変動については適応アルゴリズムをブロック実行型とし,そのパワーでそのブロック長を制御することによって解決される.残る二つの要因による係数の乱れについては,その両者を識別し,前者と判断された場合はステップサイズを小さく,後者と判断された場合は大きく設定する処置の適用が有効であるとされている.しかし,その識別を素早く,また確実に実行することは難しい.本報告では,そのダブルトークとエコー経路変動を区別することなく,適応フィルタの係数を更新しても推定誤差が安定に,また素早く低減できるステップサイズの制御を行う.その制御は別に用意した,大きなステップサイズと少ないタップ数の副適応フィルタが生成する残留エコーのパワーを外乱のパワーと近似して行う.当然ながら,副適応フィルタの係数の収束は早く,その残留エコーは急速に減少し,そのパワーは外乱のパワーに近似される.このパワーを用いてステップサイズを制御すればエコー経路変動においては大きなステップサイズが,ダブルトークにおいては小さなステップサイズが自動的に設定されることになる.