OHSAKO Yoshito
日本鳥学会誌 50(1) 1-15 2001年1月 査読有り
1981年から1983年にかけて,京都市内を流れる河川で,3種のセキレイ類の分布様式と,冬期の寛容性も含めた優劣関係について調査を行なった.月1回のセンサス調査で,セグロセキレイ M. grandis とキセキレイ M. cinerea は,周年,全域で観察されたが,ハクセキレイ M. alba(亜種 M. a. lugens)は,市街地を流れる流域でのみ10月から翌年4月までしか観察されなかった,非繁殖期,3種は番いまたは単独で出現し,番いでいる割合はセグロセキレイで最も高く,キセキレイはゼロ,つまりすべて単独で出現した.冬期の1時間の個体追跡調査では,セグロセキレイのすべて(n=28),ハクセキレイの87.1%(n=31)とキセキレイの70.0%(n=10)の番いまたは単独個体は,特定の場所への定着性を示した.その場所の中心の平均間隔(±SD)は,セグロセキレイで148(±65)m(n=16),ハクセキレイで218(±136)m(n=21),キセキレイで524(±136)m(n=7)あり,同種間では間おき分布をしていたが,異種間では大きく重複していた.また,その場所を番いで持っている割合は,セグロセキレイで87.5%,ハクセキレイで47.6%,キセキレイで0.0%であった.体の大きさの平均値は,性と種の間にセグロセキレイの雄>ハクセキレイの雄>セグロセキレイの雌>ハクセキレイの雌>キセキレイという直線的な関係があり,その性差は,セグロセキレイで最も大きく,キセキレイで最も小さかった.一方,優劣関係においては,セグロセキレイの雄>セグロセキレイの雌>ハクセキレイの雄>ハクセキレイの雌>キセキレイという相対的な関係があり,体のより小さいセグロセキレイの雌が,ハクセキレイの雄より優位であった.また,セグロセキレイは,キセキレイに対して,ハクセキレイが近くにいるとより寛容性を示した.性•種間にみられた優劣関係は,一次的に体の大きさによって,二次的に番い相手の優位性によって決定されていると考えられる.また,微環境の選好の違いと最優位種が次優位種に防衛の一端を担わせることによって,3種が同所的に存在していると考えられる.そして,冬期の各種の社会単位は,性•種間の優劣関係によるなわばり防衛の可能性に規定されていると考えられる.