服部 保, 栃本 大介, 南山 典子, 橋本 佳延, 澤田 佳宏, 石田 弘明
植生学会誌 26(1) 49-61 2009年 査読有り
1. 九州南部の熊本県市房山,宮崎県綾町川中,宮崎県大森岳,鹿児島県栗野岳,鹿児島県白谷雲水峡に分布する照葉樹林において,宿主木の樹幹・枝条に付着する植物の調査を行い,着生植物の種多様性と宿主木のDBHや樹種との関係および5調査地の種組成の相違について比較考察した.<BR> 2. イスノキ,タブノキ,アカガシなどの宿主木45種,586個体に着生する植物を調査した結果,着生植物37種を確認した.国内の照葉樹林の着生植物はシダ植物(24種)とラン科(11種)によって特徴づけられていた.<BR> 3. 5調査地間の着生植物の種組成を調査地ごとにまとめた出現頻度(%)と平均被度(m^2)によって示された種組成表によって比較した.市房と栗野の種組成が類似し,市房・栗野,川中,白谷が各々異質であった.<BR> 4. 5調査地の宿主木をDCAによって配置した.白谷と川中の宿主木が両極に,中間部に市房,栗野,大森が配置された.市房,栗野,大森の混在が顕著であり,組成の類似性が認められた.種組成を示した表とDCAの結果はほぼ一致していた.<BR> 5. 5調査地の種組成の違いは気温条件,降水量条件などの環境条件と整合している点が多かったが,種群の詳細な生態的特性等については明らかにできなかった.<BR> 6. 全樹種を対象とした着生植物種数(着生多様性)と宿主木のDBHには5調査地共に有意な強い正の相関が認められた.着生多様性とDBHとの回帰式はy=ax+b(y:着生植物種数,x:DBH cm,a・b:定数)で示すことができた.調査地間の回帰式の差は降水量,樹雨量などの水分条件に依ると考えられた.<BR> 7. 各樹種においても,着生多様性とDBHには有意な正の相関が認められたが,同じ調査地の異種間および異なった調査地の同種間でも回帰式に差が認められた.異なった調査地の同種間の差は調査地の降水や雲霧などの条件の差に基づき,着生多様性の樹種間の差は樹種のもつ樹皮の性質の違いに基づくと考えられた.着生されにくい樹種としてヒメシャラなどが,されやすい樹種としてタブノキ,イチイガシなどが認められた.