和洋女子大学紀要 = The journal of Wayo Women's University 59 47-58 2018年8月31日 査読有り
近年中国の観光は目覚ましい発展を遂げている。その背景には何があるのか。また、このような成長はいつまで続くのか。これらは多くの研究者の関心の的になっている。管見によればこれまでの中国の観光に関する研究では、持続可能性(sustainability)との関連において、観光の経済的効果の問題が取りあげられる傾向が強かった。もちろん社会的効果に関する議論も少なくない。ただ、そこにおける議論の多くは既存の経済システム、もしくは既存の社会システムというコンテクストを前提としており、したがって機能主義的な分析が目立っているように思われる。本稿ではこのような認識から、持続可能性についてそれを支える行為という視点から分類を行い、そしてそれをもとに「和諧社会」との関連で中国における持続可能性の性格を分析し、その上で今日中国において最も活発な様相を呈していると思われるグリーン・ツーリズムないしルーラル・ツーリズムとしての「郷村旅遊」、エスニック・ツーリズムとしての「民族旅遊」、レッド・ツーリズムの「紅色旅遊」などについて考察を行った。その結果、数値として現れる今日の驚異的な発展は基本的には手段的持続可能性によるものであり、それゆえ脆弱性を原理的に抱えているという指摘を行うことができた。