藤澤由美子, 坂本元子
和洋女子大学紀要 40 15-23 2000年
補体系の活性化経路として知られている古典的経路と第二経路の他に第三の経路,レクチン経路が発見された。血清中にあるマンナン結合蛋白(MBP)と呼ばれる動物レクチンがカルシウム(Ca)依存性に補体系を活性化する経路である。レクチン経路は古典的経路よりも古く発達した原始的な糖鎖認識機構に基づく活性化経路と考えられ,免疫機構が未発達な幼児期や易感染性の低栄養状態及び高齢者において特に重要な役割を果たしている可能性が考えられる。MBP蛋白量の測定は酵素抗体法によりほぼ確立されているが,この経路による活性の測定は確立されていない。そこで古典的経路及び第二経路の活性測定法の原理を手がかりにレクチン経路の活性の測定を試みた。検討には補体源として健常成人の血清を用い,標的細胞としてウサギ赤血球を使用した。各反応経路の活性化に必要なイオンを含んだ緩衝液(Ca,マグネシウム(Mg)含有ゼラチンベロナール緩衝液(GVB^<++>),Mg含有エチレングリコール四酢酸GVB,及びエチレンジアミン四酢酸GVBを準備し,ウサギ赤血球は抗体感作をしたもの(RaE-Ab),未感作のもの(RaE),マンナン処理を施したもの(RaE-M)それぞれに対する溶血の程度を観察した。また,各種糖類の各反応に及ぼす影響及び抗Clq抗体,抗MBP抗体を用いて各反応系における溶血活性を測定した。その結果RaE-GVB^<++>系はマンナンにより溶血反応が抑制されながらも抗MBP添加においてその溶血は抑制されないことから,レクチン経路のみを測定しているのではないことが明らかになった。RaE-M-GVB^<++>系はよりレクチン経路を測定していると考えられるが抗MBP添加による抑制は弱い結果であった。しかしながら,同一血球を用い,同一方法で測定することにより各経路の活性の変動がより的確に把握することができると思われる。