金森 大輔, 藤井 航, 伊藤 友倫子, 渡邉 理沙, 永田 千里, 加賀谷 斉, 才藤 栄一, 水谷 英樹
老年歯科医学 27(1) 30-35 2012年
口唇口蓋裂患者では器質的な問題のみならず,摂食・嚥下障害や構音障害などの機能的な問題が存在するため,本邦では口蓋裂が残存したまま成人を迎えることは非常に稀である。今回,われわれは未治療高齢口唇口蓋裂患者の構音,摂食・嚥下機能の改善に可撤性補綴装置を用いた症例を経験したので報告する。症例は 82 歳男性,義歯を紛失したため新義歯製作希望にて来院された。右唇顎口蓋裂児として出生後,幼少期に口唇形成術を施行されるも,口蓋裂に関しては放置され口蓋形成術は施行されていなかった。構音機能は器質的構音障害を認め,会話明瞭度3,重度開鼻声であった。食事は軟飯軟菜食と液体調整なしを摂取し肺炎などの既往はなかった。嚥下造影検査(VF)にて 50% W/V の液体バリウム 10 ml の誤嚥を認めた。上下顎は無歯顎であった。問題点として器質的構音障害と摂食・嚥下障害が考えられた。器質的構音障害に対しては鼻咽腔閉鎖を得るための顎補綴,摂食・嚥下障害に対しては,口腔準備期,口腔期を改善するための総義歯および舌接触補助床が必要と考えられ可撤性補綴装置の製作を行った。構音機能は会話明瞭度?,中等度開鼻声まで改善を認めた。摂食・嚥下機能に関しては,VF および嚥下内視鏡検査(VE)において口腔準備期,口腔期,咽頭期の改善を認めた。可撤性補綴装置の製作に VF や VE といった機能検査を用いることで,機能的な可撤性補綴装置の製作が可能であった。