松田 文浩, 伊藤 慎英, 加賀谷 斉, 渡辺 章由, 加藤 洋平, 田口 勇次郎, 田辺 茂雄, 才藤 栄一
理学療法学 37(Suppl.2) 587-587 2010年3月
【目的】<BR> 運動失調の評価には,International Cooperative Ataxia Rating Scale(ICARS),Scale for the Assessment and Rating of Ataxia(SARA)を用いることが一般的である.しかし,これらの評価スケールは順序尺度であり,評価者の主観に結果が左右される,微小な変化をとらえにくい,という欠点がある.運動失調患者の立位動揺の定量的評価としては,重心動揺計による測定があるが,これは足圧中心の動きを指標としてとらえるため,直接的に空間における身体の動揺を計測するものではない.そこで我々は,より臨床的な視点から立位動揺を定量的に評価するため,三次元動作解析装置を用いた簡便な評価法を考案した.本研究では,その信頼性と妥当性を検討することを目的とした.<BR><BR>【方法】<BR> 対象は,健常者20名(年齢28±5歳,身長165±10cm)と運動失調を呈する患者25名(年齢55±17歳,身長164±9cm)とした.被験者の第7頸椎棘突起にカラーマーカ(直径18mm)を貼付して静止立位をとらせ,2台のCCDカメラを用いて後方から撮影し,三次元動作解析装置KinemaTracer(キッセイコムテック株式会社製)に記録した.サンプリング周波数は60Hz,計測時間は30秒とした.被験者には足を肩幅に開いた立位姿勢をとらせた.また,開眼し前方の目印を注視するよう指示した.計測によって得られたマーカの軌跡から,水平面上の平均速度を算出し,動揺の指標値とした.信頼性の検討には,再テスト法を採用した.健常者20名を対象とし,同日に休憩を挟んで2回計測した.一致度の指標には級内相関係数(Intraclass correlation , ICC(1,1))を用いた.妥当性の検討には,患者25名を対象とし,同日に採点したSARA立位項目(0点:正常~6点:最重度)の得点を外的基準として用いた.指標にはSpearmanの順位相関係数を用い,有意水準は5%とした.<BR><BR>【説明と同意】<BR> 研究計画については,当大学倫理委員会の承認を得た.また,被験者には研究の主旨を口頭および文書で十分に説明し,参加への同意を得た.<BR><BR>【結果】<BR> 健常者における動揺の指標値の級内相関係数は,ICC=0.72となり,高い一致度が得られた.SARA立位項目得点と動揺の指標値とのSpearmanの順位相関係数は0.65(p<0.05)となり,中等度の関連性が認められた.SARA立位項目得点における患者25名の内訳は,0点3名,1点5名,2点7名,3点10名であり,4~6点の者はなかった.<BR><BR>【考察】<BR> 三次元動作解析装置を用いた立位動揺の定量的評価法について,健常者を対象とした検討から,計測の信頼性が示された.また,SARA立位項目との関連性から,運動失調患者に対する評価としての妥当性が確認された.しかし,対象とした患者の中には,SARA立位項目が2点あるいは3点であるにもかかわらず,0点の患者と同等の低い指標値を示す例が存在した.SARA立位項目の0~3点は,つぎ足もしくは閉足姿勢での立位保持能力を考慮して判定されるが,今回使用した動揺の指標値は,肩幅に足を開いた立位姿勢の動揺のみを表したものである.このことから,単一の立位姿勢による評価では,一部の症例において重症度の判別が困難となる可能性がある.今後は,計測時の立位条件について再度検討するとともに,指標の反応性について検証し,この評価方法を臨床での使用に耐え得る有用なものとしていきたい.<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 我々が考案した定量的評価法により,運動失調患者の立位動揺に対する客観的な評価が可能となれば,患者の重症度や,理学療法効果についてより正確な判定が行えることとなる.このような客観的な評価方法の確立は「根拠に基づく理学療法」構築の一助になると考える.