吉岡 哲志
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 125(6) 940-948 2022年6月
1972年に登場したCTは,生体の中を観察する夢を現実のものとした.耳鼻咽喉科領域においてもその恩恵に預かっていることは論を待たないが,近年,さまざまな革新的な技術が開発され,単に断面を撮影するツールとしての位置づけを凌駕するようになった.新しいCT技術と,その耳鼻咽喉科領域における応用について概説する.1980年代後半,らせん状にスキャンするという現在のCTの基本概念が確立した.一方,2006年頃,ADCTといわれる圧倒的に広い多列検出器を持つ機器が登場した.寝台移動なしに検出器が高速1回転で撮影するため,画像のどの部分でも同じ時相となる.被曝が低減し,極めて短時間で撮影ができる.また,連続スキャンによる動的な撮影(4DCT)が可能である.嚥下動態,呼吸動態,耳管の挙動,発声,関節運動,血流などの機能の評価に使用できる.さらに,本機による超低被曝での撮影は小児において特に有用である.関心領域の近傍に金属がある場合に発生する金属アーチファクトは,従来回避不能であったがこれを低減する技術がMARである.歯科金属の影響を受ける口腔咽頭(中咽頭,舌),唾液腺領域の撮影で威力を発揮する.極めて高精細な描出能を持つCTが2017年に開発された.従来機の倍密度の画素を有し,また小焦点管球を具有することで画像が極めてシャープとなり,最高空間分解能は0.15mmとなった.耳科領域で特に有用であり,耳小骨形態の評価,耳硬化症の診断,真珠腫の進展の態様の評価などに利用できる.舌癌の深達度診断,鼻副鼻腔の微細骨構造などにも有用である.人工知能やDeep learningの活用,デュアルエナジー撮影による画質向上と低被曝化,立位CTによる全く新しい生理学的評価など,次世代のCT技術開発がさらに進行中である.(著者抄録)