高橋孝幸, 野村弘行, 二宮委美, 岩佐尚美, 中平直希, 松本 直, 山上 亘, 片岡史夫, 宮越 敬, 田中 守, 青木大輔
関東連合産科婦人科学会誌 53(4) 633-639 2016年11月
卵巣癌合併妊娠は極めて稀であり,その取扱いについてのエビデンスは確立されていない.我々は妊娠中に卵巣癌疑いにて手術を施行し,組織学的に卵巣明細胞腺癌と診断されたものの,待機的治療を行い分娩に至った2症例を報告する.症例1は38歳経産婦,他院で卵巣腫瘍を指摘され,妊娠13週に当院紹介受診となった.精査の結果,卵巣癌疑いにて妊娠15週に開腹付属器摘出術および腹腔内精査を実施した.病理組織学的に明細胞腺癌Ic(b)期と診断された.症例2は37歳初産婦,他院にて急速な増大を認める卵巣腫瘍に対し,妊娠15週で開腹付属器摘出術および腹腔内検索が施行された.病理組織学的に明細胞腺癌Ic(b)期と診断され,当院紹介受診となった.両症例とも挙児希望が強く,腫瘍が卵巣に限局し残存腫瘍がないと判断し,十分なインフォームド・コンセントの上で妊娠継続の方針とし,妊娠35週に腹式帝王切開術およびstaging laparotomyを実施した.症例1では再開腹時に病変は認められなかったが,症例2ではダグラス窩,大網,回腸に播種病変を認めた.両症例とも術後は化学療法を提示し,現時点で再発を認めず経過している.卵巣癌合併妊娠では治療法に一定の見解はなく,その管理にあたっては腫瘍,周産期,新生児を専門とする医療スタッフが密に連携を取りつつ,個々の症例に応じた慎重な対応が必要である.(著者抄録)