小林 謙一, 佐藤 眞爾, 豊田 昭博, 吉見 聡, 片岡 由美, 中井 敏昭, 井田 義宏, 浅田 恭生, 鈴木 昇一
放射線防護分科会会誌 (14) 23-23 2002年4月4日
マルチスライスCT(MSCT)の導入で,広範囲の撮影が1回のスキャンで可能となった.しかしX線吸収の高い部位の線量で全ての範囲が撮影されるため,シングルスライスヘリカルCT(SSCT)より被ばく線量が増加傾向にあるといわれている.今回,東芝Aquilionにて可変管電流制御システム(Real-EC:Real Exposure control)が実用化となり,X線吸収に応じて線量を変化させることが可能となった.われわれは,最も被ばく低減が期待できる胸部について,被ばく線量低減効果を評価した. 使用機器 TOSHIBA製CT装置 Aquilion(4DAS),電離箱線量計 Radcal製 model 9015 指頭型チェンバー10×5-10.3CT(3cc), TLD Kyokko MSO-S288本 ランドファントム Alderson 方法 1.DLPによる線量比較 ICRPの概念に遵守し,トレーサビリティのとれた線量計を用い,アクリル製円筒形ファントムの回転中心線量および表面下1cmの線量を測定し,臨床例(31例)についてDLP(Dose-length product)を算出した. 2.TLDによる線量比較 1本ずつ使用線質での校正定数を求めたTLDをランドファントム内に挿入し,Real-EC使用の有無におけるTLDの読み値に校正定数を乗じ,ファントム内の吸収線量を算出した.3.臨床画像の比較 同一患者でReal-EC使用の有無における臨床画像を比較した. 結果 各撮影条件における31症例のDLPは,Real-EC未使用時に平均値でSSCTより37%増加し,Real-ECの使用でSSCTより15%低減した(Fig.1).ランドファントム撮影時の線量低減率はDLPとTLDの値で同等の低減率であった(Table 1).臨床画像を比較すると,縦隔レベルでは半分以下の線量となったが,画像ノイズは一定で,診断上問題ない画質であると判断された. 考察 臨床例(31例)についてDLPの変化を確認することができた.撮影条件によるDLPの差は平均撮影管電流の変化に比例したものであった.TLDの測定における線量低減率は撮影管電流の変化を反映したものであり,DLP値も平均撮影管電流の変化に比例しているため,両者は同等な低減率となったと考えられた.DLPおよびTLDどちらの線量評価においても,Real-ECの被ばく低減効果の有意性を確認することができた.まとめ マルチスライスCTの導入で,広範囲短時間撮影が可能となったが,シングルスライスヘリカルCTと比較し,被ばく線量は増加した.しかしReal-ECを使用することにより,画質を維持しつつ患者被ばくの低減が可能となり,有用性が認められた.[figure][table]