遊佐 安一郎, 宮城 整, 松野 航大, 井合 真海子, 片山 皓絵, 成瀬 麻夕
精神神経学雑誌 121(2) 131-138 2019年2月 査読有り招待有り
境界性パーソナリティ障害,双極性障害,物質関連障害,摂食障害,神経発達障害などに共通する特徴の1つに,感情調節の困難さがある.感情調節の困難さに対する認知行動療法的アプローチとして注目されているLinehan, M. M.による弁証法的行動療法(DBT)はその治療効果に関するエビデンスも多く,欧米では普及が進んでいるが,日本ではほとんど普及していない.また,感情調節が困難な人の家族も本人の衝動性などの影響で,苦難を経験し,家族自身も感情調節が困難になることも多く,その結果本人の改善のための効果的な支援ができない状態になり,本人と家族が悪循環に陥ることも多い.そのために欧米では弁証法的行動療法-家族スキル訓練(DBT-FST)やファミリーコネクション(FC)のようなDBTの家族心理教育への活用が進んでいるが,日本ではこれもまだほとんど行われていない.日本でのささやかなチャレンジとして著者らは7年前から感情調節が困難な人の家族のための心理教育,家族スキルアップグループを,DBT-FSTやFC,そして統合失調症の家族心理教育などを参考にして行っている.本稿ではこのグループの内容を紹介し,参加者のインタビューを通してグループの参加者たちの変化について学ぶことになった質的研究の結果などを参考にして,日本での感情調節困難の家族心理教育のあり方,可能性,そして課題についての考察を行った.(著者抄録)