室田 知香
日本文学 61(6) 11-23 2012年 査読有り
<p>『源氏物語』の時代、浄土教思想や無常観のようなものが浸透するなか、むしろはかない「この世」をいっそういとおしみ、死者や死にゆく者の視点を先取りして「この世」を遠く眺め見つつ、「この世」そのものへの多大な愛情を表わすというような文学上の表現が散見するようになる。『源氏物語』では、柏木の死をめぐる物語以降特に顕著に表われてくる傾向であろう。仏教的来世思想の浸透と再解釈のうえに現れてくると思われるこうした眼差しを追い、『源氏物語』の世界観を問う。</p>