山内 弘隆
三田商学研究 43(3) 147-169 2000年8月
運輸・公益事業の分野において実施されている規制緩和は,市場機構を通じて「公共の利益」の追求を行うものである。しかし,関連事業法は,運輸事業における供給過剰に対する緊急借景条項や公益事業における事業権と各種の義務関係のように,法改正後も旧来の事業規制で重視された様々な制約を残している。規制緩和政策の実をあげるためには事業法上の整合性をとり,競争の効果を引き出す必要がある。また,競争の基盤を整備する意味でエッセンシャル・ファシリティーの問題が解決されねばならない。混雑空港のスロット(発着枠)のように,行政がその利用基準を直接コントロールできる場合には利用者の平等感への配慮のような「政策目的」が混入しがちであるが,行政運営にあたっては競争促進という所期の目的から逸脱しないよう注意すべきである。事業法の規制緩和によって独占禁止法による競争政策との関係が整理される必要がある。現状では,電気・ガス事業の取引ルールのように所轄官庁と公正取引委員会の協議がなされているものもあるが,自由化された運賃・料金等に対する変更命令では,不当差別,独占的地位の濫用,不当廉売のように,形式的には競争政策と同様の基準を掲げながら実質的基準,施策の意図に差がみられるものがある。これらは経過措置としての意義は認められるものの,「政策的配慮」が競争の成果を減ずるものであってはならない。最後に,社会資本整備等を市場化し民間の参画を促す事業(PFI:Private Finance Initiative)では,国有・公有財産の管理等関連する法規制がその足かせになる可能性がある。民間の資金調達力や運営上のノウハウを生かすために,公物利用等に関する規制緩和が必要である。