高嶋 希世子
小児保健研究 82(6) 517-525 2023年11月 査読有り筆頭著者
わが国では小児がん患者に妊孕(よう)性温存療法の情報が十分に伝わっておらず,「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)」が尊重されているとは言い難い現状がある。そこで,温存療法を受けるかどうかを選択する患者に関わる看護師の感じる困難と各困難に応じた看護実践を明らかにすることを目的に研究を行った。生殖医療に携わる看護師1人と小児がん治療に携わる看護師4人に半構造化面接を実施し,グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析を行った。看護師は,患者からの発信が少なく,真意の捉えにくさを困難と感じ,窓口を固定化し患者が話しやすいように工夫していた。また,患者自身が子どもをもつことを想像しにくい,採取した生殖組織を活用するかは誰も分からないという患者の将来の未確定さを困難と感じて,将来のことを少しでも想像しやすくするための患者個人を尊重した対話を行っていた。さらに,治療優先による時間的制約を困難と感じ,注意を払うことで早めに動き出し,妊孕性低下の可能性を患者に伝えるよう医師に働きかけていた。患者に温存療法について話すのか,温存療法を受けるよう勧めるのかといった保護者の迷いも困難の1つと感じ,選択の猶予に合わせた姿勢で保護者と関わっていた。以上の看護実践によって,患者が温存療法を受けるかどうかを主体的に選択できることが示唆された。(著者抄録)