高根沢 康一, 中村 亮介, 曽根 有香, 浦口 晋平, 清野 正子
日本毒性学会学術年会 44 S24-1 2017年
メチル水銀は水俣病の原因物質として知られる中枢神経障害を惹起する環境汚染物質である。メチル水銀はチオール基に対する親和性を持ち、細胞内タンパク質の変性や機能不全を誘発することが細胞毒性発現の一要因と考えられる。そこで本研究では、メチル水銀に対する防御機構としてのオートファジーに着目し、様々な検討を行った。<br> オートファゴソーム形成の指標となるLC3に注目してメチル水銀による影響を様々な培養細胞を用いて調べた結果、メチル水銀を処理した細胞の全てにおいて、LC3-IIの増加が認められた。また、GFP-LC3を高発現させたマウス胎児線維芽(MEF)細胞において、メチル水銀処理により核周辺にLC3のpunctaが増加した。さらにフラックスアッセイの結果、メチル水銀とオートファジー阻害剤の同時処理は阻害剤単独処理よりもLC3-IIが顕著に増加し、メチル水銀がオートファジーを活性化することが明らかとなった。オートファジー欠損細胞であるATG5欠損MEF細胞は、野生型MEF細胞よりもメチル水銀に対する細胞生存率が有意に低く、脆弱性を示し、caspase-3の活性化も顕著であった。以上の結果から、オートファジーはメチル水銀毒性の防御機構であることが示唆された。次に、LC3と結合するp62/SQSTM1について検討したところ、メチル水銀により転写を介した増加を示した。また、p62欠損MEF細胞は、野生型MEF細胞と比較してメチル水銀に対し脆弱であると共に、メチル水銀によるユビキチン化タンパク質の蓄積が顕著であった。さらに、p62欠損MEF細胞では、ユビキチン化タンパク質とLC3は共局在しなかった。このことから、p62はメチル水銀により増加したユビキチン化タンパク質をオートファゴソームへ運搬することで、メチル水銀に対し、防御的な役割を担っていることが示唆された。今後、さらなるタンパク質分解系の分子機構を明らかにすることによって、メチル水銀に対する防御機構の一部をさらに明らかにしたいと考えている。