伊藤 泰彦
電子情報通信学会技術研究報告 = IEICE technical report : 信学技報 114(149) 1-5 2014年7月24日
筆者が委員を務めるITU無線通信規則委員会(RRB: Radio Regulation Board)の議題では,周波数や衛星軌道位置を巡る国と国との紛争案件が急増している.この背景には,日本の状況とは異なり,海外では放送衛星の需要は依然として高く,先進国,途上国を問わず軌道位置の獲得申請が増加している.これに引きずられるように,通信衛星でも,携帯基地局とのエントランス回線などの需要でKuバンド,Kaバンドでの申請が増加している.そして近年の特徴であるが,多数の衛星を保有する企業が世界的に数十の軌道位置を確保し,他国の放送・通信インフラを提供するビジネスが進展している.加えて,これまで自国で衛星を保有する財力のない国も,他国の衛星の容量を借りる形で,軌道位置の獲得を目指すものが増えている.結果として,軌道位置が不足し,これをすり抜けるために,規則スレスレの行為が横行している.本稿では,こうした状況を解説し,また,今後のワイアレスブロードバンドにおける衛星の役割について筆者の見解を述べる.