柳原伸洋
昭和12年(1937年)学会, Sep 17, 2023, 昭和12年(1937年)学会 Invited
20世紀の空襲を縦と横で考える ―日本とドイツの観点から―
2023年9月17日@昭和12年学会
柳原伸洋(東京女子大学)
本報告では、おもに20世紀前半の空襲(第一次~第二次世界大戦)について、「縦」と「横」の視点から考えたい。「縦」として空襲史を時系列として捉えつつ、日独あるいはアジアと欧州との「横」のつながりも、時系列と併せて考察する。そうすることで、グローバルヒストリーとしての空襲史を理解することができるはずである。
また同時に、空襲という攻撃方法は戦争空間を三次元空間に拡張する攻撃方法だった。つまり、「空と地上」という縦の空間と、「国境を超える越境性」という横の空間を拡張する。この拡張は、戦争時間の境界線も曖昧化させた。たとえば、軍民の境界や戦争・民間技術の境目もぼやかされていく。これら、空襲という新奇の攻撃方法がもたらした社会的な現象は、フィクション作品などの空襲をめぐる想像力や未来戦争(未来の空襲)への恐怖、民間防空動員や都市の防空化に影響を与えた。以上が、空襲をめぐる社会史である。
次に、この空襲の特性は、空襲後における想起文化(記念碑など)にも影響を与えている点に注目したい。上空と地上という加害側と被害側との距離は、機械化した戦争による「相手の顔を見ずに殺す」という近代戦争の「理想」へと近づいていくが、これは同時に戦後和解に寄与するというヤヌスの相貌を有している。国家レベル以外では加害側と被害側が特定一致しないので、民間レベルでの和解が進んできた経緯がある。これは日独において、墜落・不時着した爆撃機搭乗員の家族と空襲被害を受けた地域住民との交流が認められる点からも確認できるだろう。また、イギリスではドイツ各地の空襲戦災都市に、戦後直後から英国コヴェントリィから「釘十字」が贈られ、これが空襲和解の象徴となり、今では戦争・紛争全般の和解のシンボルとして用いられている。
最後にドイツにおいて指摘できる、21世紀現在の空襲記憶の「普遍化(グローバル化)」を取り上げる。これは、周年の追悼式典のあり方や空襲の歴史展示などに認められる。たとえばドレスデン空襲の追悼式では、今も続く空爆戦争についての言及だけではなく、「差別反対」なども掲げられる。これはドイツ連邦共和国が「闘う民主主義」として掲げてきた国是とも関わっている。この関連では、民主主義が破壊された時代としてのナチ時代の想起もなされ、空襲による被害を一面的な犠牲者化として捉えないような工夫がなされている。また、プフォルツハイム空襲の追悼式では市内在住の各少数者集団の代表の挨拶なども組み込まれ、難民迫害などについても言及される。このような一都市・被害のみに留まらない「普遍化」が生じている。逆に、広島・長崎原爆(これも空爆である)もまたドイツで追悼式典が開催されているので、これも併せて「横」の文脈として紹介したい。