竹内, 健蔵
経済学雑誌 114(3) 160-176 2013年12月
交通経済学で長年論争の対象となった社会的限界費用曲線の反転問題を概観する。多くの論争の展開は, 最終的には混雑現象を車両数(交通密度)でとらえるか, フローでとらえるかという測定単位の問題に帰着する。同じ議論は費用曲線だけではなく, 需要曲線にも適用され, これは特にわが国における超混雑論争の中心的な課題となった。交通工学における混雑分析の成果から, 混雑現象を静態的に扱ってきた従来の経済学の分析手法に疑義が投げかけられ, ボトルネック混雑を中心とした動態的な分析によってのみ超混雑現象は解明されることが指摘された。その点から考えると, 社会的限界費用曲線の反転問題は, その問題設定自体に矛盾をはらんでいたといえる。しかし, 経済学におけるこの論争は, 経済学と交通工学の接近に大きく貢献し, 交通経済学がより学際的に発展する機会を与えたものとして積極的に評価するべきである。