西出 哲人, 山下 恵司, 田窪 美葉
日本社会情報学会学会誌 22(1) 5-16 2010年9月
地方自治体の情報化の進展が社会的に望まれている。しかし,日本では一部の地方自治体が先進的な取り組みをする一方,他の自治体は後追いとなり,全体的に進捗が遅れている。他方で,住民は地方自治体に影響力を持つが,知識や情報が不十分なために,地方自治体の評価方法が限られる。そのため,住民は,情報化に関する適切な圧力を地方自治体にかけにくい。地方自治体の評価に関して,情報が限られている住民が取りうる方法のひとつに,他自治体との比較がある。本論文では,住民による局所的な比較が,情報化に対する地方自治体の行動に影響を与え,結果的に,情報化の進捗に影響を与えると考えた。そして,住民による局所的な比較のネットワークの構造が,全体の情報化の進捗に与える影響をシミュレーション分析した。その結果,住民による比較のネットワークは,情報化の進捗に対して常に影響を与えるわけではないことが得られた。しかし,条件が整った場合,その影響力は情報化の進捗にとどまらず,地方自治体の情報化への対応策を不安定にすることがわかった。ところで,所属する自治体の評価の際に,他のどの自治体と比較するかは,地元では経験的に認知されているが,外部から把握しにくい情報である。本論文の結果は,地方自治体の情報化を検討する際に,地元に根ざした局所的な社会関係に配慮することの必要性を示している。