林田 一子, 池西 悦子
日本精神科看護学術集会誌, 59(2) 43-47, Jul, 2017 Peer-reviewedLead author
本研究の目的は、患者から暴力を受けた精神科看護師が様々な困難を抱えながらも仕事を継続するに至るまでのプロセスと、その影響要因を明らかにし、患者から暴力を受けた看護師に対するサポート方略の示唆を得ることである。暴力は「危害を加える要素をもった行動で、容認できないと判断される、すべての脅威を与える行為」と定義し、研究デザインは複線径路・等至性モデル(Trajectory Equifinality Model:TEM)を使った質的研究法で行った。研究対象者は、過去に患者から暴力を受けた経験があり、以降も勤務を継続している、所属病院の異なる精神科看護師4名(男性2名、女性2名)とした。1名につき2〜3回の半構造化インタビューを実施した。すべてのデータを質的記述的分析によって概念化し、TEMで分析した。その結果、暴力を受けた看護師は、混乱した心理状態、患者の看護やかかわりの方向性が見通せないしんどさが継続し、受ける「暴力」は同じでも、<疾患による症状と思えない>と、より患者に対する嫌悪感が高まっていた。<患者による暴力事象は避けられない>環境で、同僚からのバックアップを感じ、<組織の改善に向けた動き>によって、<チームで暴力に対応できる・精神科で看護ができると思える>経験をしていた。仕事を継続する中で<精神科看護師における看護師の役割>が意識化され、<組織での役割>を得るなど、<チームの中で自分の役割を見出す>経験をしていた。組織で対策可能な方略としては、病棟単位で医師や他職種を交えてのチームビルディング研修や、自己の暴力受傷経験を振り返る際に有効な包括的暴力防止プログラム内の患者暴力についての理論的知識教育が考えられる。また、当事者や当事者の語りを聞くことができた人が、暴力対応・対策の改善について提案・発言できるように支援する必要がある。(著者抄録)