植田 正彦, 笹島 宗彦, 来村 徳信, 池田 満, 小堀 聡, 角所 収, 溝口 理一郎
全国大会講演論文集 51 185-186 1995年9月20日
近年,モデルベース故障診断システムの研究が盛んに行なわれているが,扱う対象としての故障の概念が明確に定義されていないという問題がある.例えば「侵入」という故障の概念のひとつのインスタンスを考えてみると,その指し示す内容は必ずしも明確ではなく,流体が流入するという「事象」や,穴やすきまの存在といった流入の「条件」,修理の対象となる「箇所」などの複数の概念を表していると考えられる.つまり,故障概念は多数の概念的プリミティブから構成されていると考えられるが,この概念プリミティブの集合の要素やそれらの対応関係は不明確なままである.従来のモデルベース故障診断システムに関する研究では,パラメータレベルのモデルを用いた故障診断手法についてのみ考察しており,故障概念に関する深い考察はなされていない.そのため,故障概念の把握は人間のモデル構築者の主観にまかされており,一般性のないモデルが記述される可能性がある.また,故障診断タスクは記号レベルでの意味のみが定義されており,人間の認知しうるレベルにおける意味が不明確である.本研究は,故障概念の統一的表現のための故障オントロジーの確立を目標とする.故障オントロジーは,故障概念を表現する際の概念的プリミティブの集合とそれらの間の関係からなる.プリミティブは人間の概念レベルにおける意味を与えられており,それらを制約関係に基づいて結び付けることで,故障概念を表現する.また,故障診断タスクは故障オントロジーのプリミティブを用いて定義される.この故障オントロジーに基づいて表現された概念的な故障によって,パラメータで表現しにくい故障を表現することができる.例えば,タービンの羽根の「変形」という故障は,羽根の角度や面積といったパラメータとの間の関係の把握が難しいため,パラメータでは表現しにくい.筆者らは,パラメータレベルの故障についてはすでに考察を行ない,パラメータレベルでの故障をパラメータ故障と制約式故障に分類し,診断方式を提案している.故障オントロジーはこれらのパラメータレベルの故障とのマッピングについても検討する必要がある.また,概念的な故障の起こるメカニズムの知識についても検討してきた.本稿では,文献[3]より抜き出した概念レベルでの故障概念の具体例を整理し,故障概念の表現モデルについて述べ,故障オントロジーの一部分を明らかにする.また,パラメータレベルと概念レベルの間の変換についてもふれる.