保坂 裕子
教育方法学研究 29 37-48 2003年
教師の仕事活動は,近年展開されている教育改革をはじめとして,子どもたちや家庭状況,社会状況の変化,学校に対する社会的ニーズの変化に伴い,大きな転換期をむかえている。そこで本研究では,「総合的な学習の時間」のカリキュラム開発を進めるある小学校教師チームに着目し,実践において教師の仕事活動がいかに変化しているのか,またどのようなことが課題となっているのかについて検討することを通して,教師の仕事活動を転換する可能性を探ることを目的とした。研究方法論として,文化-歴史的活動理論を基盤とする「発達的ワークリサーチ」を採用した。当小学校における問題状況として,(1)学校外活動やグループ活動を進めるために,充分な教師の人数が確保できない,(2)総合学習をめぐる教師間の共通理解の不足,の二点があげられた。一点目については,教師を含む大人の人数確保のために,既存の活動形態の変革,外部組織との連携が試みられた。二点目については,教師間のコミュニケーション形態を転換していく必要があることが指摘され,解決は次の課題となった。教師チームは,既存の仕事活動の境界を再定義し,新たな文化的ツールを媒介させることによって活動システムの転換へと向かった。教育実践研究の今後の課題は,実践現場において起こっているこのような教師の学習活動に着目し,新たな転換の契機をとらえ,実質的変化を促進していくことなのではないだろうか。