広渡俊哉, 高木真也, 立岩邦敏, 安能浩, 李峰雨, 山田量崇, 水川 瞳, 上田達也
環動昆 18(1) 23-37 2007年3月 査読有り
異なる森林環境における小蛾類群集の構造の違いを比較し,小蛾類の環境指標性を検討するため,静岡県熱海市および函南町において植生の異なる3地点(庭園的環境,緑地公園,原生林)を選び,2001年5〜7月,および9月に計4回,灯火法(カーテン法)による調査を行った.小蛾類群集の比較には各地点の種数と個体数,種多様度指数(1-λ),優占種,幼虫期の食性および群集問の類似度(GS)と重複度(cπ)を用いた.採集された小蛾類の種数と個体数は,庭園的環境(120種271個体),緑地公園(95種357個体)と比較して原生林(191種601個体)がもっとも多かった.3地点ともにハマキガ科,メイガ科,キバガ科の3科が上位を占めていた.スガ科の種数は原生林で特に多く,ハモグリガ科の種数は庭園的環境と緑地公園で多かった.小蛾類群集の種多様度(1-λ)は,全地点で0.95以上を示した.優占種は庭園的環境と緑地公園で類似しており,原生林の上位5種は,他の2地点と共通する種がなく特徴的であった.各地点間の種構成の類似度(QS)は,いずれも低い値を示した.食性のタイプ分けの結果,幼虫が草本や木本植物を食べる種だけでなく,主に林床部で枯葉などを食べる腐食性の種数も原生林でもっとも多かった.また,腐食性の種が各地点の総種数に占める割合はいずれも10%前後と比較的高く,林床部も腐食性の種にとって良好な環境が保たれていると考えられた.以上のことから,小蛾類は林床部を含めた森林環境を評価する指標として有用であることが示唆された.