安藝 大樹, 田中 耕司, 栗原 輝, 大八木 豊
水文・水資源学会研究発表会要旨集 35 217 2022年
治水経済調査マニュアルのように浸水被害額の算定は現在のトレンドで多くの研究がなされている.その一方で,利水マニュアルは昭和50年代から研究が進展しておらず,近年は将来的予測に関する検討の必要性があると認識されている.そこで,本研究では,水不足の問題を抱えている大和川水系を対象に,水資源の管理の方向性を提案することを目的としている.
今後,地球温暖化による気候変動に伴い気温が上昇し,作物・農地からの蒸発散量の増大,灌漑時期の変化,夏場の渇水というような問題を引き起こす可能性が高い.そこで,水資源の確保が難しくなると想定される将来のダム必要利水容量やダム残容量0の年数について考える必要がある.これらの課題を踏まえて,本研究は,大和川水系において利水機能を持つ奈良県管理ダムの初瀬ダム,天理ダム,白川ダムにおいて利水機能の評価を行った.
現在の初瀬ダム,天理ダム,白川ダムの利水容量は,それぞれ135万m3,95万m3,86万m3である.表-2は奈良県管理ダム必要利水容量,表-3は奈良県管理ダム残容量0の年数を示している.単年で評価した場合,将来的には経年的にダム容量が空の状態が続くような水不足が深刻な問題となることが示された.さらに,経年で評価した場合は,ダム容量が再び回復することは難しいことが確認された.
ダム容量を確保する対策として,農地割合を変更することができる白川ダムに関しては,水田と畑の土地利用比率を変更し,5パターンの算定を行った.農地の割合を水田から畑に高めることで水資源の確保に期待できることが確認できた.特に,渇水年数に関して現在の農地割合から水田と畑の割合を0:100にすると,7分の1と大幅に減少する結果となった.
今回の計算結果より単年渇水で評価をした場合,将来的には経年的にダム容量が空の状態が続くような水不足が深刻な問題となり,経年評価では,ダムの利水容量の回復が見込めないことが示された.また,農地の割合を水田から畑に高めることで水資源の確保に期待できることが確認できた.将来の土地利用の転換について説いてきたが,今後の課題として適地適作の具体案を検討していきたい.