山端 直人, 鬼頭 敦史, 飯場 聡子, 六波羅 聡, 東 りさ, 藤井 佳子, 髙橋 完
哺乳類科学 66(1) 105-117 2026年
シカ(Cervus nippon)による農作物被害は営農意欲低下による耕作放棄地の増加などの要因にもなっている.その低減には,適切な防護柵の設置・管理と加害個体の捕獲が重要であるとされ,地域住民が主体的に防御と捕獲に取り組む地域主体の獣害対策の体制構築が重要である.しかし,人口減少に伴い獣害対策の担い手も減少するなか,防御と捕獲の体制構築も困難となる事例も増加しつつあると考えられる.本研究では,集落防護柵の維持管理がなされていても開口部からの侵入によりシカの農業被害が深刻な集落を対象とし,地域住民と学校区単位の自治組織(本稿では住民自治協議会)が主体となった加害個体の捕獲活動を2集落で実施することで,シカによる農業被害を軽減し得ることを実証した.実証では集落開口部で年間10頭以上のシカが5年間継続して捕獲され,被害は両集落ともほぼゼロにまで低減し,ライトセンサスの結果でも,300 mのバッファ内ではシカの出没が減少する傾向が見られた.そして,住民へのインタビュー結果でも集落内の農地における農業被害低減を評価する声と同時に,シカの目撃も少なくなったことを実感する発言が増加した.結果として,防御と加害個体捕獲という基本的な技術を実践するため,集落単位では捕獲者の不在から加害個体の捕獲が不可能になる集落があるなど,単一の集落で不可能なことを学校区などの複数集落に跨る組織で調整し,捕獲に必要な場所選定から捕獲個体の処理までの作業が滞りなく実施可能な体制を地域の状況に合わせて構築することが有効であることを示すことができた.