阿部 和子, 柴崎 正行, 阿部 栄子, 是澤 博昭, 坪井 瞳, 加藤 紫識
人間生活文化研究 2014(24) 245-264 2014年 査読有り
本研究の目的は,「おんぶ」や「抱っこ」という身近な育児行為の変化とえじこ,子守帯,ベビーカー等の育児用品の変化と現状の検討を通して,近代日本における子育ての変化の過程を考察するものである.「おんぶ」は,子守や家事の必要性から生れた庶民の育児法であり,その起源は,平安時代にまでさかのぼる.それが明治以降わずか150年ほどの間に「労働のためのおんぶ」から「育児のための抱っこ」へ,日本人の子育てのスタイルが変化をとげた.また明治から昭和の初めにかけて,多くの人々にとっての育児用品は日用品の代替であった.だが第二次世界大戦後,特に,欧米の情報や文化が庶民レベルまで浸透し,普及しはじめる60年代に入り育児用品は家庭で作るモノから買うモノ(商品)へと変化する.モノの豊かさは,ある意味で親子の生活を便利にすると言える.一方,それらは自らの子育ての必要感から作りだされたモノではない.現在,他者から提供されるあふれるモノの中で,その使い方さえ教えてもらわなければならないという逆転現象を生んでいる.それがモノにたよる育児へと変化し,もはや商品化されたモノがないと育児が難しい状況である.子どもの成育環境の悪化が叫ばれる昨今,本研究で取り上げた諸事象は,一考すべき問題であろう.