洞田 大輔, 小山 総市朗, 高橋 秀明, 岡田 恵理子, 杉戸 真, 山口 亜由美, 若林 宏旭, 加藤 万之輔, 櫻井 宏明
理学療法学Supplement 2010 DbPI2356-DbPI2356 2011年
【目的】<BR> 近年,透析患者の運動療法介入による身体機能の改善効果を示す報告が多くみられる.しかし,一般的に血液透析患者では運動負荷による合併症リスク増大や新規運動時間の確保が問題となる.その為,透析中の運動が注目され,医師監視下による運動負荷リスク軽減や運動脱落率の低下が報告されている.ただ,従来報告の効果判定では機能改善をADLや運動パフォーマンスの指標から述べるものが多い.このような効果判定指標では臥床時間が延長した血液透析患者では評価する事さえ困難であると考える.その為,効果判定指標を再考し機能面だけでなく,生化学データ所見も併せて疾患特異的な効果判定指標を用いる必要もあると考える.一般的に血液透析患者の筋肉量や栄養指標の一つに%クレアチニン産生速度(以下,% CGR)がある.本研究では,血液透析患者に対する透析中の運動療法効果判定の一つとして% CGRを用いて,運動療法開始から2カ月経過した血液透析患者の運動療法の効果判定を検討し,若干の知見を得たので報告する.<BR><BR>【方法】<BR> 対象者は医師が透析中運動療法可能とした16名より,%CGRに影響を及ぼす可能性のある透析状態,栄養状態が不良で入院又は体調不良をきたし継続困難であった7名を除外した計9名である.内訳は入院6名,外来3名,男性4名・女性5名である.平均年齢72.9±10.1歳,平均透析期間47±73か月であった.介入頻度は週3回,運動時間は透析開始後2時間以内とした.運動療法施行時は医師・看護師確認の下,実施した.場所は透析室内でベッド上で行った.内容は関節可動域訓練,背臥位で行える筋力増強訓練,下肢交互屈伸動作による持久力訓練,頚部および胸郭のリラクセーションとした.各運動毎に血圧・脈拍・自覚的疲労度を測定した.評価項目はFIMと血液生化学データから%CGRを算出した.評価時期は透析中運動療法開始前と開始後2カ月のデータを抽出した.なお,%CGRは同年代,同性の非糖尿病透析患者の%CGRの百分率である.運動可能頻度は各個人の透析回数中に運動試行回数を百分率で表した.統計学的分析には対応のあるt検定を用いて有意水準5%未満とした.<BR><BR>【説明と同意】<BR> 本研究の実施手順および内容はヘルシンキ宣言に則り,当院倫理委員会の承諾を得た後に行った.対象者には研究者が口頭および書面にて研究目的,方法,利益や不利益,プライバシー管理につき説明の上,同意を得た後,同意書に署名を頂いた.<BR><BR>【結果】<BR> 運動療法介入前5ヵ月間のFIM運動項目は平均47.4±22.1点,FIM認知項目は平均23.2±7.3点,%CGRは83.3±41.8%,運動療法介入2カ月にてFIM運動項目は平均47.4±22.1点,FIM認知項目は平均23.2±7.3点,%CGRは90.9±41.4%,運動可能頻度は初月78%2か月後93%であった.リハビリ試行中に体調不良および事故発生は0件であった.運動療法介入前と介入後2ヵ月の%CGRでは有意差を認めた(p=0.05).<BR><BR>【考察】<BR> 血液透析患者に対して,透析中運動療法を施行しADL改善は困難であったが%CGRにて改善を認めた.ADL改善困難な原因は透析中訓練のため,課題特異的でない事と, リスク管理上運動負荷も低い為であると考える.また,FIMは疾患特異的ではなく,寝たきり患者様では効果判定指標として検出し辛いのではないかと考える.%CGR改善に関しては訓練導入前より活動時間が増加し,透析効率の改善も考えられた.さらに, 明らかな訓練頻度の向上により訓練介入にて刺激量が増大しセルフエフィカシーの改善につながったと考えている.まだ,運動介入から2カ月と短期間での評価結果だが,現時点でFIMでは検出不可能であった運動療法介入効果を%CGRを代表とする生化学的データにて示す事が出来た.このような結果から血液透析患者に対して疾患特異的尺度の開発が必要であると同時に,従来の効果判定指標では示せない運動介入による効果判定を行う必要があると考える.<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 血液透析患者では日常の臨床で運動療法による改善効果が患者の内的情報から聞かれる事は大変多い.しかし,ADLのような疾患特異的では無い評価尺度や,運動パフォーマンス変化を必要とする尺度でのみでは客観的な運動効果を示す事は難事である.本研究では疾患特異的な効果判定尺度を用いて介入効果を検討した.本研究のような視点からの運動療法介入効果を示す事も今後の理学療法において重要と演者らは考え,本研究は臨床的にも意義のあるものと考える.