狐塚 順子, 宇野 彰, 北 義子
言語聴覚研究 2(3) 141-147 2005年12月 査読有り
9歳右利き女児.モヤモヤ病術後に脳梗塞を起こし,失語症が出現した.失語症発症後約8〜10ヵ月時に行った呼称,復唱,逆唱,仮名音読課題の反応を認知神経心理学的に分析し,成人失語症と比較した.病巣は左縁上回,角回を含む下頭頂小葉にみられた.呼称,復唱,仮名音読の各モダイリティはほぼ同様の傾向で,音韻性誤反応の出現率は実存語-呼称が10.0%,実存語-仮名音読が13.3%,非語-復唱が20.0%,非語-仮名音読が23.3%であった.非語30語の仮名音読では,2語に語彙化が観察された.同年齢の健常児よりも非語復唱の正解率は低く,Rapid Automatized Namingや実存語逆唱の反応時間は遅かった.成人伝導失語症例と比べると,自己修正の単位,発話を中断した位置,母音の誤り方が類似していた.子音の誤り方は転置の割合が大きかった.症例に語音認知障害はなく,聴覚的理解力障害も軽微で,音韻処理機能に障害がある小児の伝導失語と思われた