中板 育美
保健医療科学 70(4) 352-363 2021年10月
令和元年の児童福祉法の改正で、「児童の健康及び心身の発達に関する専門的な知識及び技術を必要とする指導をつかさどる所員の中には、医師及び保健師が、それぞれ1人以上含まれなければならないこと」と規定され、児童虐待の中核的機関である児童相談所に「医師及び保健師」が配置されることになった(令和4年4月1日施行)。児童相談所は、児童福祉法(昭和22年)を根拠として設立され、児童福祉行政の最前線の役割を担ってきている。そこで勤務する保健師の役割は、1964(昭和39)年の「児童相談所執務必携」に「保健婦は、-中略-とくに育児相談、三歳児の精密検査、一時保護児童の健康管理などに他の職員とともにあたる必要がある」と記載されたのが初めてである。しかし、これまでの児童相談所保健師は、「児童福祉司」、「保健師と児童福祉司の兼務」など任用もさまざまで、系統的な役割活動につながるには困難もあり、職業的アイデンティティの揺らぎも生じていた。児相の幅広い専門性を充実・強化する一端として、児童相談所の保健師の増員が見込まれることは重責である。そこで、児相保健師の専門性を文献から分析し、そこから役割を展望した。その結果、児相保健師は、人事の発令上「児童福祉司」であっても、「ソーシャルワーク的思考と公衆衛生活動を組み合わせた活動をする」「チームアプローチを重視する」「医学的視点と生活の視点で家族を観て保護的に支える」「母子保健法の強みを児相内で活用する」「母子保健事業で要支援の潜在ケースを顕在化させる」「親子の関係性の評価も含めた健康管理をする」「措置解除から在宅養育への切れ目のない支援を実現する」「精神保健と精神医療と児童福祉の橋渡しをする」「相談・支援を要する人を相談者に導き、必要な時に傍にいる」など活動の実際は多様であり、従来の保健活動スキルを生かしていた。児相に保健師として必置となる今後は、「児童福祉を担う他職種には不足していて、保健師が提案できる視点・考え方・技術は何か」の分析が問われていく。(著者抄録)