法学新報 123(9・10) 238-308 2017年3月
裁判員裁判は、制度開始7年余を経過した平成28年8月末現在11,118件が係属し終局人員9,342人(有罪人員9,093人、死刑28人、無期懲役176人、無罪56人、控訴人員3,263人、控訴率35.7%)、選任された裁判員52,723人及び補充裁判員17,941人総計70,664人の市民が裁判体の構成員として刑事裁判に参加している。裁判員裁判の制度設計段階では、裁判員への難解な法律概念の理解敷衍が重要な問題の一つとして自覚されていた。裁判員裁判の蓄聚に伴い顕在化した問題は、裁判員選任手続きへの出席率の低下及び裁判員候補者の辞退率の増加傾向であり、改善の方策が喫緊の課題である。<br />
本稿は、難解な精神医学用語であるPTSDが争点となった東京地裁平成26年12月11日第11刑事部判決を素材にその問題点を検討するものである。考察方法は、4回開廷された当該裁判を傍聴したのち刑事確定訴訟記録法4条1項に基づき保管記録をも参照し臨床的に裁判員裁判を考察するものである。<br />
裁判員裁判公判廷で精神医学用