平成10年7月30日。Lactobacillus casei シロタ株の遺伝研究について の総説で、①ゲノム(染色体・プラスミド・ファージ・転移性の遺伝因子について)、②突然変異の誘起・遺伝子導入と育種(接合・細胞融合・形質転換とプラスミドベクター・染色体組込みベクター・不要遺伝子の除去について)、③遺伝子の構造と発現(遺伝子構造・転写・翻訳・今後の課題について)を解説した。
(総頁数267頁中、59-80頁「遺伝・育種」を単独で分担執筆)
細胞壁ペプチドグリカン鎖末端にD-乳酸を持つLactobacillus plantarum KY-1株において、このD-乳酸を連結する酵素遺伝子ddl に、基質特異性をD-乳酸からD-Alaに変化させる変異を導入し、高温で複製ができなくなる変異を持つプラスミドに連結した。この組換えプラスミドDNAをKY-1株細胞に導入して高温で生育させたところ、KY-1株染色体と導入プラスミドの間で相同組換えが起き、変異ddl を染色体に組込むことができた。(224頁)
生ごみに最優勢に生育するLactobacillus plantarum KY-1株はバンコマイシン(Vm)高度耐性で、細胞壁合成酵素ddlがD-Ala-D-乳酸型のため、D-乳酸が生育に必須と推定された。生ごみからポリ乳酸原料のL-乳酸を高効率で生産するため、KY-1株のD-乳酸生産を排除すべく、D-Ala-D-Ala型ddlになると推測される変異遺伝子を作製しKY-1株に付加的に導入した結果、Vm耐性が軽減され、変異ddlの有効性が示された。(11頁)
Lactobacillus casei シロタ株はプロバイオティクスの効果が知られている。本菌の作用機作を明らかにしたり効能を実証することを目的とした遺伝的解析法を確立するため、プラスミドベクターや染色体組込みベクターを開発して遺伝子導入を可能にし、またベクター由来の不要遺伝子を除去出来るシステムを構築した。また本法を用いて本菌表層への異種タンパク質の発現例を示した。今後の課題についても論じた。木脇真祐美、門多真理子
Lactobacillus casei YIT9029株の乳糖プラスミド pLY101の喪失株は乳糖資化能がないが、染色体上 にpLY101と類似の乳糖資化オペロンが存在した。喪失株から2x10‐8の頻度で乳糖資化可能復帰変異株を取得した。YIT9029株及び復帰株における染色体乳糖資化オペロンの構造解析の結果、YIT9029株のプロモーター領域内に変異が見出された。
Lactobacillus casei シロタ株のファージφFSWのゲノム 上のインテグラーゼ遺伝子、組換え部位を含むDNA断片を、同株で複製不能なプラスミドに挿入して同株細胞に導入すると、プラスミドはキャンベルタイプの部位特異的組換え機構で同株染色体上に組込まれた。これを利用しベクターを作成したところ、目的遺伝子を安定に染色体に組込み選択用遺伝子を除去できることが明らかになった。
乳酸桿菌属細菌における宿主・ベクター(H-V)系開発に関する招待講演。乳酸桿菌細胞のスフェロプラストとリン脂質でファージ DNA を包んだリポソームを融合すれば DNA 感染が起きることを明らかにしたので、ファージベクターを開発し、この DNA 感染法を利用して、乳酸桿菌属の 細菌において H-V 系を開発し、遺伝子操作技術を 用いて菌の改良が可能と考えられた。