岡田 章, 世良 庄司, 田口 真穂, 山田 博章, 永井 尚美
第23回日本医薬品情報学会総会・学術大会 2021年6月26日
【目的】
近年の高齢化の進展に伴い、高齢者に対する薬物療法の需要が増大している。高齢者は、加齢に伴い薬物動態や薬物反応性が一般成人とは異なり、また複数疾患の治療のため併用された薬剤間で相互作用が起こりやすく、薬物有害事象 (AE) が問題となりやすい。本邦では高齢者への薬物療法適正化を目指し、高齢者の特徴に配慮したよりよい薬物治療を実践するため、平成30年5月に「高齢者の医薬品適正使用の指針 (総論編)」(以下指針)、令和元年6月に「同・各論編 (療養環境別)」が厚生労働省より発出された。本研究では、指針に着目して加齢に伴う医薬品のAE発現傾向の品目横断的解析を行い、高齢者で特に注意を要する薬物とリスク項目について検討を行った。
【方法】
対象薬剤は、指針の薬効群ごとに整理された「高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点」に記載されている医薬品および同種同効薬とした。解析には、医薬品副作用データベース (JADER) 登録の情報を用いた。解析対象は被疑薬のみとし、年齢が欠損又は情報不足および同一AEで識別番号が重複しているデータは除外して解析用データベースを作成した。AEは、指針および対象薬剤の医薬品リスク管理計画に記載されているものを対象とし、MedDRA/J (Ver 23.0) を用いて対象AEの基本語にて分類した。AEの発現リスクは、80歳未満の患者に対する高齢者 (80歳以上) の報告オッズ比 (ROR) にて評価し、シグナル検出基準は95%CI>1とした。なお、AE発現の対照には全薬剤データより算出したRORを用いた。
【結果および考察】
催眠鎮静薬・抗不安薬では、特に短時間作用型においてせん妄、転倒・骨折等の老年症候群が生じやすい傾向にあった。抗うつ薬においてはSSRIおよびSNRIにおいて、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群の発現リスクが高値を示した。抗凝固薬においては、出血リスクの上昇は認められず適正な用量調節が行われていると考えられたが、貧血のリスク上昇が認められた。テオフィリンは高齢者で中毒症状が発現し易い傾向にあり、治療薬物モニタリングの必要性が示唆された。また、糖尿病治療薬における低血糖の発現リスクは高齢者において有意に高かったものの、全薬剤での発現率と同程度であり、糖尿病治療薬特有の傾向ではないと考えられた。近年の本邦副作用報告に基づく品目横断的な検討から、指針に記載されているAEであっても、医薬品ごとに発現傾向は異なることが示唆され、80歳以上の高齢者に対する最適な薬物療法を遂行するうえで有用な情報を提供すると考えられた。