山田雄大
武蔵野法学, (21) 71-106, Sep, 2024
本論文は、わが国の刑法上の正当防衛における責任阻却の側面に着目し、従来は完全な犯罪とされてきた過剰防衛の一部について不可罰とされるべきことを示した。
わが国の過剰防衛は裁量的な刑の減免しか定めておらず、他国と比較すると無罪の余地が全くない点で、反撃者にとって酷なものとなっている。本論文では、このような問題意識から、過剰防衛の一部を無罪とする規定を有するスイスの議論を参照し、それに基づいて正当防衛の責任減少・阻却的側面について検討した。
その上で、過剰防衛とされる行為の一部について、違法減少と責任減少を組み合わせて不可罰とすることができることを指摘し、また、その判断に際しては、①責任減少の対象となる興奮・驚愕が正当防衛状況から引き起こされたものであること、②興奮・驚愕が重大なものであり、当該反撃者において慎重かつ答責的に反応できなかったことが考慮されることを確認した。このような考え方によれば、一般的に、防衛行為の相当性の逸脱の程度が小さく(違法性減少の程度が大きい)、恐怖・驚愕等の程度が大きい場合(責任減少の程度が大きい)には不可罰とされることになるといえる。